おわりに -3-

◎おわりに(杉浦 洋平)
 
 
 歯科医師国家試験に合格した時、「今まで6年間頑張ってきて本当によかった」と家族皆で大喜びしたことを、いまだ昨日のことのように覚えています。
 
 
 しかし、数日するとその喜びも徐々に不安に変わってきました。確かに歯科医師免許を取得し、晴れて歯科医師になりましたが、患者さんが求めている治療がはたして私にできるのか、歯周病で苦しむ多くの人を治すことができるのか? これから始まる歯科医師人生をどのようにスタートさせればよいのか、毎日迷っていました。
 
 
 歯科医師の場合、大学を卒業するといろいろな道があります。自分の将来のビジョンに近い開業医院で腕を磨く者、口腔がんなどを治す口腔外科のスペシャリストを目指す者、小児歯科や矯正歯科などより専門的な分野へ進む者、大学に残り未来の歯科医師の卵を育てる者、研究者として大学に残る者……など、さまざまです。
 
 
 その時の私は「病気を治すためには、病気そのものをもっと、深く知る必要がある」と思ってはいたものの、今の自分はあまりにも知識が不足していると痛感していました。ですから「どのように病気が発症し、どのような過程を経て治癒に向かうのか」といった発症から治癒まで病気の一連のメカニズム、つまり病気本態を勉強することから歯科医師人生を始めようと決意しました。
 
 
 病気本態を追及するのなら臨床基礎医学研究で非常に著名であった、愛知学院大学大学院口腔病理学講座の亀山洋一郎先生のもとで、徹底的に研究をしたいと思うようになり、同大学大学院歯学研究科博士課程に入学することにしました。
 
 
 若い歯科医師のほとんどはすぐにでも腕を上げたいと思う人が大半ですから、私のように大学で6年間勉強してきて、さらに大学院で4年間の基礎医学の研究生活を自ら選んで進む人などいないのでは? と思っていましたが、実際入学してみると私と同じ考えの若手歯科医師がいることに驚きました。私、原田先生、古田先生は大学も違えば、卒業年度も違います。しかし、私と同じ考えで病理学の扉を開けたことは、今の私にとって宝物のような出会いでした。
 
 
 現在、私は豊臣秀吉のおひざ元である名古屋市中村区で、地域密着型の歯科医院にて多くの仲間と日々診療にあたっています。小さなお子さんから高齢者までさまざまな年代の方が色々な理由で来院されますが、「患者さんは家族」というコンセプトで診療を行っています。
 
 
 患者さんのためを考えた痛くない治療を追及すると、最後にたどりつくのは、やはり『予防』です。一般歯科医が手が出せない高度先進医療の最前線で戦う原田正守先生、東京という大都会で難易度の高い矯正治療と向き合う古田博久先生、そして私。3人とも戦う土俵は違いますが、3人ともとことん治療を追及すると最後にたどりつくのは、予防という答えは同じです。
 
 
 私は歯科医師である父の背中を見て育ち、成長するにつれ、誰に言われるともなく、自然に歯科医師を志すようになりました。
 
 
 私には今年3歳になった息子がおります。まだまだ幼子のこの息子が、私が父の背中を見て歯科医師を志したように、私の背中を見て、押しつけでなく、自然と同じ道を歩むようになってくれれば、このうえない喜びにつながると思います。
 
 
 父から受けついだ志、誇りを持って息子にも引きつげるよう、迷うことなく今後も自らの道を邁進していきたいと思っています。
 
 
 3人で執筆させていただきました、予防歯科の大切さを謳った本書が、皆さんの幸せな健康に少しでもお役に立てれば幸いです。
 
 
prev
next