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保険診療の限界-1-

◎保険診療はオーダーメイド治療とは真逆
 
 
 私は以前、一般的な健康保険医として歯科治療をしていました。すべてを自由診療に切り替えたのは、理想的な歯科治療を行うには、すべての人を保険制度のガイドラインに当てはめること自体に無理があり、限界があると感じたからです。
 
 
 ごく初期の削る必要のない虫歯でも、削って詰め物にすれば収入になります。歯を削らないと1円にもなりません。歯を守らなければならないはずの歯医者が、歯を守ってもお金にならないというのが今の健康保険制度です。
 
 
 ある人を、生まれたときから20 歳になるまでずっと診察し続けた歯科医がいるとします。例えば、Aという歯科医は、その子と親と一緒に頑張って虫歯を1本も作らず成人を迎えさせることに成功しました。Bという歯科医は、ろくに口腔ケアの指導もせず、虫歯ができては削って詰めてをずっと繰り返していました。それでは、AとBどちらの歯科医が収入を得ていると思われますか? 実は、この場合、収入が多いのは、Bの方です。いくら一生懸命に虫歯を作らないよう頑張っても、A歯科医には報酬は得られません。もちろん、B歯科医の診察を受けていた患者さんとその家族は、歯の大切さなど聞いたこともないでしょう。なぜ、そんな矛盾したことが起こるのか?
 
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 現行の歯科における保険制度は、病名がついた疾患の治療行為に対する出来高払いだからです。つまり、ほんとうの予防には健康保険が適応されないのです。真剣に虫歯予防に向き合えば向き合うほど、保険治療の考え方とは離れていくのです。このような制度は、歯科医にも患者さんにもメリットが少ないのではないでしょうか?
 
 
 前章でオーダーメイド治療の大切さについて述べましたが、保険治療はこれとは真逆です。虫歯や歯周病、歯並びの状態は患者さん1人1人違い、背景も異なります。歯を磨いていなくてそうなった人、そうではなく大きいストレスを抱えていて食いしばってしまって歯にダメージの強い人、病気があって唾液が減ってしまっている人……、それぞれ原因は違うのに、どの患者さんにも同じ素材、同じ治療と決まってしまっているのはおかしいと思います。どんな虫歯でも治療でやることは一緒。歯医者に行けば、削って詰めるだけ。その背景を聞くわけでもない。背景を聞けば、削って詰めるだけでは治らない虫歯も実際にあることに気づきます。それを無視して決まりきった治療をすればまた再発してしまいます。例えば、他の病気で、唾液が減るような副作用のある薬を飲んでいる場合などは、内科の主治医にいって唾液が減らない薬に変えてもらうなど、そういう配慮も大切です。
 
 

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