◎なぜ歯科医院はコンビニの数以上に増えたのに、日本人の歯はよくならないのか?
日本の歯科医師は多すぎるといわれて久しくなりました。歯科医院の数は全国で6万5000軒以上。コンビニエンスストアの数4万軒余といわれていますから、コンビニの数よりずっと多いというのが現実です。この傾向はさらに続くと予想されていて、厚生労働省の試算では、2025年には1万8千人の歯科医師が過剰になると考えられています。
経済の概念では、数が増えれば競争が激しくなるので患者さんは得を刷るはずなのですが、歯医者の場合はちょっと話が違います。歯科医師の数が増えると、1軒の歯科医院当たりの患者数が減ることになります。しかし、歯科医院は経営上収入を減らすわけにはいかないので、なんとか患者単価を上げる必要に迫られます。すると不必要な診療をしたり、無意味な治療をして治療費を保険請求したりといったことが起こるかもしれませんし、そこまでいかなくても治療の質を下げることでコストダウンする歯科医院が増える可能性もあります。 日本の保険制度では、歯科に限らず、治療ごとに点数が決められています。30~40年前は虫歯も多く、日本人の歯は虫歯でボロボロでした。その頃は、現行の保険治療でも、ある程度は患者さんを救っていたと思うのですが、これだけ歯科医院が増えた
今、ほんとうはやらなくてもいいような治療までもやっていかないと、経営が成り立たない歯科医院があるのは事実です。
歯が少し悪くなると、その歯を治す努力をせず、すぐ抜いて、インプラント(人工の歯の根)を入れるというひどい話もあります。歯科医院の経営状態は厳しくなってきましたが、技術的には簡単にいろいろなことができるようになって、歯科医業をやっていくためのハードルが低くなっています。
矯正治療でいえば、考え方によっては、悪いことばかりではないように思えます。今や、歯を動かすこと自体は難しくはありません。ですから、床矯正(しょうきょうせい)という看板を出してお安い値段で矯正治療を始める歯科医院もあるようです。値段が安くなれば、多くの人の歯並びをきれいにできるのですから、それで真に治せる場合はたいへん結構なことです。しかし、床矯正では3次元的に咬み合わせを治すことが困難です。どこに動かしていくかが問題です。歯は力をかければ誰でも動かせますが、そこにビジョンがなければほんとうの意味の矯正治療とはいえません。どういう状態に治したいのかという目標は決まっているのでしょうか?
歯にダメージがあって元に戻せない状況になったときに出番が来るのが、本来の歯科修復治療だと思います。そういうときにこそ歯科医の修復治療技術は生かされるべきです。入れ歯もインプラントもそうですが、歯を失ってものが噛めなくなり、たいへんな思いをしている人のための医療が本来の姿だと思うのですが、今はどんどんそこからズレていっている気がします。患者さん自身が、どんな治療をしたいのかという意思をきちんともち、それに合った歯科医院を選ぶことが今後ますます大切になるように思います。