●治療を通じ、より深まった親子のコミュニケーション
指田恵美子さん 指田哲弥くん 親子
恵美子さん(以下恵) 二十歳の頃かかっていた歯医者さんに「よくその歯並びで生きてこれたね~」って、ひどい言葉をあびせられたんだよ。信じられないでしょ?その一言で絶対に矯正なんてしない! 一生この歯で生きてやる、ってね。歯医者ってこ
んなやな人ばかりなんだと思ってたのよ。
哲弥くん(以下哲) へぇ、それは失礼だ! でも、よい先生に出会えたもんね。おかげで
考え方も人生も変わった、ヨカッタよね。
恵 たしかに……。その歯医者さんも銀座なんだけどね(笑)ほんとうは子どもの頃から、矯正やりたかったけどあきらめていたの、高かったしね。開咬で苦労したな~、咬み合わせが悪く2カ所のみの接点で噛んでいたから、学校の給食のあとはいつも胃が痛くなっていたよ。母親に相談しても取り合ってもらえなかった、そんなに悪くないじゃないだって。
哲 だから先生にお母さんが先に矯正をやりなよっていわれたときはうれしかったんでしょ?
恵 地元の歯医者に行ったら犬歯を抜く方法っていうし、それは絶対にイヤだった。いろいろ調べて健康な歯を抜かないで矯正ができることを知ったとき、それが理想だと思った。
哲 僕が10歳の頃、検査の前に一緒に話を聞きに行った。ほんとうは僕が先にやりたかったんだけど、まだ永久歯が生えそろってないから、だったらお母さんが先にやればと。
恵 そう、貯金もあったし、親も少しなら援助してくれるっていってくれたしね。
哲 僕の分はおじいちゃんが出してくれるっていってたので超安心(笑)。
恵 おじいちゃんは哲弥のためならなんでもしてくれるもんね(笑)。治療を真剣に考え初めたときから、歯を抜かないことにはこだわりがあったからね。カウンセリングに行ったもう一つの歯医者では『横顔が大事、4本抜くと横顔が90度になりキレイになる、逆に抜かないと上下の咬み合わせが合わなくなっちゃう』だって。
哲 僕は英語の塾でふざけてボール投げしてて、机にぶつけて唇を切った、前歯が出てるから口が閉まらないのだ。痛かったな~(笑)。
恵 あの時はビックリしたよね。結局は縫わないで済んだけど、下手したら縫わないといけなかったんだから。それからかな、真剣に矯正のことを考えたのは。あとは哲弥の夢、パン屋さんになることに一歩近づくためでしょ? 歯並びの悪いパン屋さんなんてカッコ悪いもんね。イケメンパン屋を目指してるからね。
哲 小さい頃、泥遊びが好きだったんだけど汚れるからだめだって。その代わり台所に立ってお母さんの手伝い。特にケーキを作るのに粉をこねたりするのがすごくおもしろかった。
恵 皆が喜んでくれるものね。その笑顔がうれしくて、パン屋さんになるって。
哲 オイシイパン屋さん特集で雑誌にのるから歯がキレイでないと(笑)
恵 先生もおっしゃっていたけど、特に子どもの治療は本人のやりたいっていう強い意思がないと。それこそ安くないのだし、掛け損はしたくない・・・。それに痛くないわけでもないから、正直大変なことも多いしね。だから、本人がやるっていわないと続かない。
哲 肉食えないし。それでもやりたいって思ったから、歯磨き指導だって5年間ずっと続けた。一度決めたことは続ける、意思は強いです(笑)。
恵 私が先に始めた治療だけど、これがほんとに痛かった。治療してすぐに痩せたもの、3キロも‼ 自然ダイエット(笑)。レタス1枚噛めないし、スープや流動食みたいなものばっかり食べていたよね。煮込んだうどんやおかゆとか。仕事中のランチは蒸しパンばっかり食べていたな。痛がっている私を見ると、哲弥に恐怖心を植えつけちゃうって思ったから、全然痛くない風に我慢したんだよ~。心配そうな哲弥に『若い人は大人より痛くないんだよ』なんていったり。結局、私は歯ぐきが若かったらしく1年5カ月で終了、リテーナーは1年8カ月。私自身はそんなに食べなくても我慢できるけど、哲弥は成長期だし。
哲 僕も初めの頃は、おかゆ、豆腐、うどんとかやわらかいものばかり食べていたよね。いつもはおかわりをするぐらい爆食するのに、痛くて給食が食べられない日があって、牛乳しか飲めなくて……で、家帰ってきて熱出した。学校の先生に相談したら他の子は我慢してるよっていわれちゃったんだけどね。
恵 仕方ないから学校の先生に頼んで、パンを持って行くようにしたのよね、特例って。
哲 友達にも今日はなにパン? なにスープ? ってちょっとずつ分けたりして。歯が四方八方ごちゃごちゃにはえてたからよけいに痛かったのかな。
恵 私の接客という仕事も特に気にならないでできたかな。矯正しているお客さんも多かったし、同僚に矯正いいな~とうらやましがられたのも、ちょっとうれしかったりして。キレイになるためにがんばろって。
哲 僕は中1の夏に装置をつけ、クラスでもいろいろいわれたけどそれはいじめとかでなくて、いじられ系で逆におもしろかった。ゴムをやってると『あ~指田がゴム外してる~』とか。治療している子も結構いて、今何段階目? とか矯正ネタで盛り上がったり。イヤな思いはしないで済んだ。
恵 まあ、痛いときいらいらしてしまって、私に当たってたことはあったよね。治療に行った夜とその次の日は痛くて、気持ちもキレがち。こっちも痛みがわかるから、しょうがないね~はいはい、痛いよね、お母さんだって痛かったよとか、痛さの張り合いっこしたり(笑)。二日後にはだいたい落ち着くし。毎月の調整が動いている証拠だからねって。でも銀座に行くのはうれしかったででしょ?
哲 予約時間に合わせて、銀座で何おいしいもの食べよっかって。それを楽しみに通ったね。ピザとか歯に入らないものがいい。中2くらいから外食もできるようになってきたんだよね。歯も揃ってきたし。銀座で矯正ってのが友達に自慢だった。僕のステイタスが上がった(笑)。
恵 夕飯も豆腐グラタンなどよく作ったよね。高野豆腐をハンバーグにまぜたり、はんぺん料理を考えたり……。もともと細身なのにまた痩せちゃったしね。あと、装置が取れたとき、あ~取れちゃった~あった方がよかったって思ったよ。先生がどうですか?っていうから、え~なんかやだ~、心配~って。
哲 僕は装置のない口の中ってこんなに広いんだって思った。口の中が解放的だな~って。
恵 歯磨きがとても楽になった! でも誰も気づいていないのは意外だった。『え? 歯並び悪かったっけ?』ていう人もいたし。逆にまったく知らないお母さんに『矯正してるんですね?』って声かけられたりもした。気にしている人はやっぱ気になるよね。終わって食べた大好きなおもち、美味しかったな~。そのせいでせっかく減った体重がもとに戻ってしまったけど。ちゃんと噛めるっていうのがすごくうれしかった。今は、何を食べても胃が痛くなることはないし。
哲 まあ、前から明るいお母さんだけど、以前は口を閉じながら笑っていたよね。それっていま思うと気持ちわりぃし、不気味。矯正後はちゃんと笑えるようになったよね。
恵 たしかに、痛い、高い、簡単ではないかも。でもその分だけ喜びはすごい。痛いっていってもちょっとの時間だし、やっぱり自分の歯で一生食べたいし。
哲 僕は終わったら、好きなものをたくさん食べてやる~って、食べもののためにやった感があるよ。肉、おもち、アメ、ガム、特にソフトキャンディが大好きで終わったら食べまくったよ。1日で全部食べちゃったり! あとさ、顔がカッコよくても歯並びがよくないと笑顔がイケてないっしょ。やっぱり思い切り笑ったときはキレイな歯並びでないと! スポーツができるようになったこともうれしい。前はケガしたら困るし、食いしばれないとかで。今はその心配がなくなったので、新しいスポーツにもチャレンジできるかな。勉強だって、以前より集中力がついたような気がする。矯正中はひどかったもんね。
恵 そうそう。集中できずに成績も下がった……区立でよかった~ってね(笑)。矯正が終わったらまたがんばればいいじゃないって、うまくなだめながら勉強させたよね。
哲 いらいらしても、もちろん学校ではそんな態度出せないしね……家に帰ると一挙に爆発してしまって……お母さんに当たってうっぷんを晴らしていたこともあったかも……当時はお世話になりました(笑)。
恵 いいたいことをいうと、落ち着いてくるでしょ。気持ちの波があったよね。思春期のせい? 歯のせい? 見極めが大変だったわ~。
哲 もちろん感謝してます。食事にも気を使ってもらったのはわかっているし、ほんとうにありがたいって思ってるよ。お金を出してもらったおじいちゃんにも。皆の愛情があったから乗り越えられたと思うから、それに応えられるよう、ちゃんと努力もしなきゃいけない、適当にしたらばちが当たる、意味ない。
恵 我が家は矯正治療を通して、親子のコミュニケーションがより深くなったいう感じかな。話題も増えるし。治療には必ず一緒に行くから、私としては一緒に歩いてくれるのもうれしいし。子どもに治療をやらせる保護者はたいへんかもしれないね。なだめたり、すかしたり、気を使ったりしなくちゃならないこともあるけど、子どもがよくなるためのフォローならなんでもしてあげたいと思う。お料理だってレパートリーが増えるし、いろいろ考えたレシピ、おいしいっていってくれて食べてくれるとそれはそれですごくうれしい。
哲 矯正して得たものはすごく大きい。見た目ももちろんだけど、夢に向かって踏み出す勇気がすごく大きくなった気がする。
恵 女の子にモテルようにもなったんでしょ(笑)。
哲 たしかに!知らない子に声をかけらることも増えたかも。
恵 夢とか、前向きな気持ちとかいって、ホントはそれが一番うれしいんじゃないの~(笑)。