◎歯学教育の矛盾
あなたの「矯正治療」のイメージはどんなものですか? 歯並びの悪いのをキレイに並べる。もちろん正解です! とにかくキレイに並べればよいのなら、歯を抜いたり削ったりして、デコボコの見た目だけを整える方法があります。
これは今も残っている、私が大学時代感じた矛盾です。ある日の午前中の講義。歯周病学。歯周病とは? 歯周病になる原因とは? 歯周病の症状とは? 歯周病にならないための予防法とは? 歯周病になってしまったとき、どんな治療をするのか?どれも歯を保存(歯を残すための学問)しようという考え方でした。歯周病学では、歯を抜いてしまうのは、最後の手段です。抜いてしまわないように、抜けてしまわないように、「一生懸命、歯を残すんや!」先生の言葉に、1本の歯に対するこだわりを感じたものです。8020 運動の話もありました。親知らずを除くと歯は28本あります。80歳で20本になってもよいわけではありませんが、最低でも20本あれば、なんとか食事ができるという最低ラインです。歯周病学の講義を聞いて、せめて20本は残してもらうために、みんなの歯を守らなければ! と思ったものです。
午後の講義は矯正学です。歯並びの分類、歯並びはなぜ悪くなるのか? 歯並びが悪いと、どんな弊害があるのか? 歯はどうして動くのか? 歯並びをよくするにはどうすればよいのか? 矯正の講義は、他の講義とは少し違い、美しさ、きれいさを求める部分が多くあります。もちろん、歯並びや咬み合わせが悪いと、虫歯や歯周病になりやすくなるという説明もありました。 しかし、歯並びをよくする方法、きれいに並べる方法の話になると、一転、健康な歯を抜く話になります。埋まっている親知らずなどではなく、見えている、何でもないキレイな歯を、です。しかも10代のときに抜いてしまうというのです。歯周病の講義では歯を少しでも減らさないよう歯を守るのが私たちの仕事だと教わり、矯正学では生えている健康な歯を4本抜いて、キレイに見た目を整えましょうといっている。親知らずが使えないときは、さらに歯を抜いて10代で24本になってしまう。8020達成まで後4本。後70年もあるのに…。せっかく、キレイな歯並びにしようと思ったのに歯が減ってしまうことは、ほんとうに仕方がないことなのか…?
これが学生のときに感じた素朴な疑問です。同じ講義室で午前と午後、まったく違うことを教えている。しかし、これは全国ほとんどの歯科大学や歯学部、歯科衛生士学校での日常なのです。
自分の歯が失われることなく、美しく保てるのなら、健康に過ごせるなら、歯科医学的に考えても最も幸せなことではないでしょうか? また、何も加工していない、自然な自分の歯がきれいであることは、究極の健康美だと思うのです。