前章で「患者さんの背景を見ながら行うのが本来の治療」と書きましたが、そこで必要なのが「傾聴(けいちょう)」です。傾聴とは、こちらの聞きたいことを聞くのではなく、相手のいいたいこと、伝えたいこと、願っていることを受けとめ、共感した態度で聴くこと。そして、相手が自分自身の考えを整理し、納得のいく結論や判断に到達するように支援することです。「聴」の字が示すように「耳と目と心で聴く」のです。
現代はコミュニケーションの時代です。流行のツイッターやフェイスブックもそうです。コミュニケーションをとって信頼関係を得た人と、仕事や取引きをする。テクニックを披露したり一方的に宣伝して人と近づくのではなく、同じ目線に立って情報を提供し合い、信頼関係を気づいたうえで一緒に歩んでいく。
医療の世界も同じです。患者と医者の関係が今までの関係では成り立たなくなってきています。お互いに歩み寄ってコミュニケーションとったうえで、診てもらう医者を選ぶ時代だと思います。医療者側も患者さんの話をきちんと聞いてわかろうとすれば、お互いに納得できる解決法が見つかります。人への興味がなければ、ほんとうの治療はできません。それから初めて、信頼関係が生まれます。「人を診ずに歯を診るのはおかしい」といったアメリカの有名な歯科医がいましたが、まさにそのことですね。